【展覧会】「世界を変えた書物」展 歴史・美術好き的マニアックレポート

世界を変えた書物展_展示室

上野の森美術館で開催中の「世界を変えた書物」展に行ってきました。この展覧会は、金沢工業大学ライブラリセンターの稀覯本コレクション「工学の曙文庫」から、約130点を展示した全国巡回展です。工業大学のコレクションですので、主に科学史で重要な書物の初版本などを中心に展示してありました。

しかし、私は科学は得意分野ではないので、この記事では自分の趣味に引きつけた「非常に偏った」展覧会紹介をしたいと思います。

・いざ、本の世界へ!本好きがトキメク最初の部屋

「世界を変えた書物」展の会場入口
展示会場の入口。本の中に入っていくような造り。

本の世界へ入っていくという造りになっていて、入口からワクワクします。展示室内も撮影OKなので、スマホやカメラの持ち込み推奨です。ただし、フラッシュは禁止なので、設定に気を付けましょう。

さて、一番最初に載せた写真が、1室目の様子。この部屋の写真はネットにUPしている人も多いので、見た人もいるのではないでしょうか? 壁面にぎっしり本が詰まった様子は、カッコいい図書館、まさに「知の殿堂」という雰囲気ですね。実際の大学図書館の本を持ってきているらしく、よく見ると背に請求ラベルが付いています。

「世界を変えた書物」展(入口)アインシュタインの手書き原稿
展示の最初は、アインシュタインの手書き原稿から始まります。

以下、私が特に気になった本を中心に、会場写真と共にお伝えします。

ウィトルウィウス『建築十書』1511年ヴェネツィア版
ウィトルウィウス『建築十書』1511年ヴェネツィア版

最初の部屋に展示してあるのは建築関連の書物。本の壁が作る内装が、建築という分野と繋がっているのでしょうか?写真は、古代ローマの建築家・建築理論家のウィトルウィウスの代表的著作『建築十書』。ルネサンス時代に注目を集めた書物で、展示してあるこの本も16世紀に出版されたもの。出版地のヴェネツィアにも注目。ヴェネツィア共和国は、当時ヨーロッパの出版の中心地の1つでした。

デューラー『人体比例論四書』ニュルンベルク、1528年版
デューラー『人体比例論四書』ニュルンベルク、1528年版

建築だけかと思いきや、こちらはドイツ・ルネサンスの代表的な画家アルブレヒト・デューラーの理論書。理想的な人体の美の比率を、数字で理論化した有名な本です。こちらはデューラーの故郷ニュルンベルクで出版された初版とのこと。そのまま当時の空気を500年後の現代まで伝えてきている書物です。

因みにこの『人体比例論四書』は、『人体均衡論四書』というタイトルで日本語全訳が出版されていますので、気になる人はチェックしてください。

フランチェスコ・コロンナ『ポリュフィリス狂恋夢』ヴェネツィア、1499年版
フランチェスコ・コロンナ『ポリュフィリス狂恋夢』ヴェネツィア、1499年版

こちらはルネサンスに流行した物語「ポリュフィリス狂恋夢」(ポリフィロの夢)。

1499年にヴェネツィアで出版されたイタリア・ルネサンスを代表する挿絵入りの本で、主人公ポリフィルスが夢の中で、不思議な動物や妖精などに出くわしながら、恋人ポーリアを探し求める物語である。Wikipedia「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」より

この作品は、日本ではあまり知られていませんが、当時の美術作品などにもかなりの影響を与えていたようです。物語自体は建築とはあまり関係がなさそうですが・・・、挿絵の中の変わった建物に注目したのでしょうか。

ところでこの本の出版年は1499年、15世紀末です。グーテンベルクによる活版印刷術の改良で、ヨーロッパで印刷本が作られるようになったのは15世紀の半ば。以来15世紀末までに出版された本は特に「インクナブラ」(揺籃期)と呼ばれ、部数も種類も少なく非常に貴重な本とされています。この本もそんな貴重な時代に作られた1冊なのですね。

「世界を変えた書物」展 展示室2
本のトンネルは「知の迷宮」にふさわしい

・13の科学カテゴリーに分けられた「知の森」

上の写真の本のトンネルを抜けていくと、次の展示室「知の森」コーナーへと続いていきます。知の森コーナーでは、13のカテゴリーに本が分けられ、その分野の歴史的発展や相互の繋がりに注目した展示となっています。

13のカテゴリーの内容は、
1:古代の知の伝承
2:ニュートン宇宙
3:解析幾何
4:力・重さ
5:光
6:物質・元素
7:電気・磁気
8:無線・電話
9:飛行
10:電磁場
11:原子・核
12:非ユークリッド幾何学
13:アインシュタイン宇宙

本当に、理系の分野の本ですね。この展覧会は、これらの分野に関心がある人なら更に楽しめると思います。でも、詳しくなくても名前だけは知っている、学校で習ったような本が目の前にあるのは本好きなら嬉しい。その中から、自分が好きな本を見つけられれば最高です。

アインシュタイン『特殊相対性理論と一般相対性理論』ブラウンシュヴァイク、1917年
アインシュタイン『特殊相対性理論と一般相対性理論』ブラウンシュヴァイク、1917年

キャプションの左にある「Check20」という目印は、展示品の中でも特に20冊に付けられた表示。科学者の代表的な著作だったり、歴史を変える転換点になった本だったりするそうです。だからこの20冊は特に有名な本ばかり。これだけはチェック☑したい本ですね!と言いたいところですが、会場が混んでいたので私は割とさらっと見流してしまいました。

レントゲン『新種の輻射線について』ヴュルツブルク、1895-96年
レントゲン『新種の輻射線について』ヴュルツブルク、1895-96年

挿絵写真を見ればすぐわかる。レントゲン写真ですね。エックス線を発見した報告書です。

他にも有名な書物としては、ダーウィン『種の起源』、デカルト『方法序説』、コペルニクス『天体の回転について』などなど。ちょっと変わったところでは、エジソンが特許申請のために提出した説明書とか。展覧会出品の中で唯一の日本人、ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士の著作などもあります。

ジャン・バッティスタ・デッラ・ボルタ『蒸留法九書』ローマ、1608年
ジャン・バッティスタ・デッラ・ボルタ『蒸留法九書』ローマ、1608年

でも、私は、まだ科学と魔術が完全には分かれていなかった時代の方が、好みです。こちらはの本の著者は、私は知らなかったのですが「ルネサンス最大の魔術師」と呼ばれた人だそうです。展覧会の区分的には「6:物質・元素」のコーナーにありましたが、この奇妙な形の器具といい「蒸留法」という言葉といい、科学というよりもいかにも“錬金術”!でワクワクします。

ケプラー『新天文学』プラハ、1609年
ヨハネス・ケプラー『新天文学』プラハ、1609年

こちらも「チェック20」の中の1冊、ケプラーの著作です。ケプラーといえば、学校でも習う「ケプラーの法則」を唱えたルネサンスの天文学者です。でも、この時代の天文学者ですから、占星術師でもありました。出版地がプラハであることにも注目。この時代のプラハは、現在のドイツを中心とした国、神聖ローマ帝国の首都。その皇帝はかの有名なルドルフ2世でした。ルドルフ2世の宮廷には、大勢の科学者や魔術師・錬金術師が集ったことで知られますが、ケプラーもその中の1人だったのです。

ルドルフ2世については、この記事を書いている2018年の初頭に、渋谷のBunkamuraなどで展覧会があったので、見た人もいるでしょうか? 私が友人たちと主宰しているクリオ・ルーデンスでも、ルドルフ2世のイベントを開催したので、ケプラーの名前も科学というよりはルドルフ2世関連のイメージが強く、何となく親しみを感じています。

私が書いたルドルフ2世の展覧会の紹介記事はこちら。

ジョルジョ・ヴァザーリ『最も優れた画家、彫刻家、建築家の生涯』フィレンツェ、1568年、増補改訂版
ジョルジョ・ヴァザーリ『最も優れた画家、彫刻家、建築家の生涯』フィレンツェ、1568年、増補改訂版

そしてこちらは「東京展特別出展」コーナーにあったもの、日本語では通称『芸術家列伝』と呼ばれることが多い本です。ヴァザーリといえば、西洋美術史を学ぶ学生が必ず出会う名前。ヴァザーリは16世紀のイタリアでメディチ家に仕えた画家・建築家で、この本はレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロの三大巨匠をはじめとして、ルネサンスの芸術家たちの伝記を(虚実を交えて)綴ったものです。現在でも当時の芸術家について知るための一級の資料です。

・最後の部屋は、本をモチーフにしたインスタレーション

「世界を変えた書物」展の最後の部屋
「世界を変えた書物」展の最後の部屋は、書物の展示ではなくインスタレーション

展覧会の最後の部屋には本はなく、こんな感じの展示となっていました。時間がなかったのでしっかり見なかったのですが、写真の右側には、展覧会に展示されている書物の名前や、13のカテゴリーを表す色の線、そしてコンピューターの画面が見えるので、恐らくは「知の森」の繋がりを表しているのでしょう。でも、パッと見ると現代アートのインスタレーション作品のようですね。写真の左から部屋の奥にかけて展示してあるのも、本に見せかけた板。

最初の部屋もそうでしたけど、この展覧会はアートみたいで展示が面白いと思いました。因みに会場の展示例会おうと等も、金沢工業大学の先生と研究室の学生たちが手掛けたそうですよ。

本の魅力と人類の知を存分に楽しめる展覧会でした!
なんと入場無料なので、ちょっとでも気になる人は行った方がいい。じっくり見るのもいいですし、時間のある時にサクッと見に行くのもオススメです。

【「世界を変えた書物」展の基本情報】

期間:2018年9月8日(金)~24日(月・休)
場所:上野の森美術館(上野公園)
時間:午前10時~午後5時(入場は閉場の30分前まで)
入場無料

展覧会については、こちらに詳しい見どころ纏めがあります。

Related posts